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奈良地方裁判所 平成4年(ワ)302号 判決

原告

甲野春子

右訴訟代理人弁護士

喜多芳裕

被告

乙川一郎

右訴訟代理人弁護士

山本彼一郎

主文

一  被告は、原告に対し、一八七五万九七九〇円及びこれに対する昭和六三年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金額の支払をせよ。

二  原告のその他の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その他を原告の各負担とする。

四  この判決は、主文一項に限り仮に執行することができる。

事実及び争点

第一

一 原告

1 被告は原告に対し三五三二万七九五三円及びこれに対する昭和六三年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行宣言。

二 被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決。

第二 当事者の主張

一 当事者間に争いのない原告の請求原因事実

1 本件事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という)により受傷した。

(一) 日時 昭和六三年六月二〇日午前七時五分ころ

(二) 場所 ○○市○○町○○○番地西方約三〇〇メートル先道路

(三) 加害車 被告が保有し、運転する普通乗用自動車(奈良55や二六四五。以下「被告車」という)

(四) 被害車 原告が運転する原動機付自転車(天理市か五一三。以下「原告車」という)

(五) 態様 本件事故現場の状況は別紙図面記載のとおりである。

本件事故当時、原告は、A女子大学学芸学部一年生であったが、昭和六三年六月二〇日午前七時五分ころ、自宅から原告車でB駅付近へ向かう途中、本件事故現場に東方から差し掛かった。

本件事故現場は、原告進行方向からは右に、被告進行方向からは左にカーブしており、共に見通しは良くなかった。被告は、原告車右側部に被告車右前部を衝突させ、原告と原告車を共に道路に転倒させた。

(六) 結果 原告は、本件事故により、右下腿骨開放骨折の傷害を負い、山の辺病院に昭和六三年六月二〇日から同年六月二七日、天理よろづ相談所病院に同日から昭和六三年九月一日、同年一二月七日から平成元年一月八日、平成二年二月二六日から同年三月一四日、同年七月一二日から同年八月三日、平成三年二月二二日から同年三月六日まで入院し(入院期間合計一五九日)、事故日から四年二か月余りを経過した平成三年八月二八日に至る長期間の治療を余儀無くされ、2項記載の後遺障害を残すに至った。

2 原告の後遺障害

原告の後遺障害は、天理よろづ相談所病院C医師による診断結果によると、次のとおりであり、自動車損害賠償保障法施行令別表一二級七号及び同級五号の二つに該当するので、繰り上げて一一級に相当する。

(一) 大腿周囲径の左右不整合

右52.0センチメートル

左53.0センチメートル

(二) 下腿周囲径の左右不整合

右36.0センチメートル

左36.5センチメートル

(三) 右足部の蹠屈不全と第Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ足趾の屈曲腱の拘縮により、正位遠位趾筋間関節にて各二〇度の伸展障害による屈曲変形をきたし、趾が屈曲変形したため、歩行しにくく、転倒しやすい。

(四) 右足背部分に触覚痛覚鈍麻がある。

(五) 醜状障害

(1) 右腰骨に7.5センチメートルの手術痕(足の骨折治療のため、骨を削ったときのもの)

(2) 右足正面に14.5センチメートルの傷(衝突時についたもの)

(3) 右足外側に7.5センチメートルの傷(手術時のもの)

(六) 下肢の短縮

右下肢が左下肢より二センチメートル短縮している。

(七) 関節機能障害

膝関節 他動自動とも、屈曲左右とも一四五度、伸展左右とも〇度

足関節 他動自動とも、背屈右一〇度、左三〇度、蹠屈右三〇度、左六五度

3 責任原因

被告は、被告車の保有者であり、かつ、その運行の用に供していたもので、原告の受傷について、自動車損害賠償保障法三条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。

二 被告の知らないあるいは争う原告の請求原因事実

1 原告の自覚症状

(一) 正座をすると、右足のかかとの関節が痛むため、正座ができない。このため、お茶、生花などの女性としての基本的な技能の習得も困難である。

(二) 足首がよく曲がらないため、階段をスリッパで昇ろうとすると、スリッパが脱げる。

(三) 右足の指関節が伸びないため、長い時間歩くと足指関節が痛くなり、長時間は歩けない。

(四) 右足のかかとが曲げにくいため、右足を伸ばした状態でしかしゃがめず、和式トイレが使用できない。

(五) 寒い日又は雨の日には、右足首関節痛がある。

(六) 電車・バスに乗車したとき、立ったままだと、かかとの関節が痛んで、その後曲がらなくなる。

(七) 運動をすると右膝が痛くなるため、激しい運動ができない。

(八) 右足の膝前面及び甲の感覚が鈍く、湯につけるとしびれ感がある。

2 原告の損害

(一) 治療費

六一万四五九二円(争いがない)

(二) 付添看護費

四六万五〇〇〇円

(1) 入院付添費

原告の入院期間中、山の辺病院の七日間及び天理よろづ相談所病院における昭和六三年六月二七日からの同年九月一日の六七日間、併せて七四日間は、原告は自らは身の回りのことをするのが困難であったため、原告の母訴外甲野夏子(以下「夏子」という)が原告に付き添った。この入院付添費としては、一日当たり五〇〇〇円、合計三七万円が相当である。

(2) 通院付添費

原告は三八日間の通院期間中、歩行が困難であったため付添いが必要であり、夏子がこれに付き添った。この通院付添費としては、一日当たり二五〇〇円、合計九万五〇〇〇円が相当である。

(三) 入院雑費 一九万〇八〇〇円

原告の一五九日間の入院期間中の雑費としては、一日当たり一二〇〇円、合計一九万〇八〇〇円が相当である。

(四) 転院費用  一万五〇〇〇円

原告は、昭和六三年六月二七日山の辺病院より天理よろづ相談所病院に転院したが、このとき、原告を搬送する自動車の費用として、一万五〇〇〇円を要した。

(五) 医師謝礼 四〇万円

原告は、六回手術を受けたが、このうち四回は一回当たり一〇万円の謝礼を医師に支払った。

(六) 授業料 一五万円

原告は、事故当時A女子大学学芸部一年生であったが、本件事故による受傷のため、翌年三月まで学校への出席が困難となり、一年間の留年を余儀なくされ、この間の授業料として、一五万円を支払った。

(七) 家屋改造費等

九万二八〇〇円

(1) 原告は、退院後も階段の昇降が困難であったので、屋外からの居間へ上がるためのスロープを設けた。この工事費は四万四八〇〇円であった。

(2) 原告は、本件事故まではふとんで寝ていたが、事故による傷害の治療のため、脚部をギブスで固定され、ふとんでは寝起きが困難なので、四万六〇〇〇円のベッドを購入し、ベッドで食事をするため、バイアステーブルを二〇〇〇円で購入した。

(八) 下宿代 六三万八〇〇〇円

原告は、本件事故までは自宅から通学していたが、翌平成元年三月まで休学したのち、平成元年四月から学校の近くに下宿するようになった。この下宿代金は月額二万二〇〇〇円であるが、このうち、症状固定までの二九か月間の計六三万八〇〇〇円は本件事故による受傷と相当因果関係がある。

(九) 休業損害

四七三万六八〇〇円

(1) 原告は、本件事故当時、家庭教師のアルバイトをしており、その収入は月額六万円であったが、受傷により、計一五か月間にわたり右アルバイトができなくなった。これによる損害は合計九〇万円である。

(2) 原告は、本件事故による受傷のため、一年間の留年を余儀なくされ、本件事故がなければ平成四年三月に卒業できたはずであったにもかかわらず、平成五年三月の卒業となって就職が一年遅延し、このため、原告の就労可能期間は一年間短くなった。これにより、原告は、大卒女子賃金一年間の収入である三八三万六八〇〇円相当の損害を受けたと解するのが相当である(賃金センサス平成二年第一巻第一表参照)。

(一〇) 逸失利益

一七五九万〇一九三円

原告は、健康な女子として、将来少なくとも賃金センサス(平成二年度第一巻第一表)の産業計・企業規模計・大卒女子平均賃金相当額程度の収入を、大学卒業時(二三歳)から平均労働不能年令(六七歳)に至るまで得られることには高度の蓋然性があるから、これを収入額の基礎とし、原告の後遺障害の内容から労働能力喪失率を二割とし、中間利息の控除は新ホフマン式によって計算すると、その逸失利益は一七五九万〇一九三円となる。

(計算式・3,836,800×0.2×22,9230)

(一一) 入通院慰謝料  四〇〇万円

(1) 入院について

原告の入院期間は合計一五九日であるが、この間に計六回の手術を繰り返しているので、手術による苦痛は計六回受けている。

なお、原告は体質的に麻酔が効きにくく、手術時の苦痛は通常人より大きかった。したがって、原告の入院慰謝料は、通常の事例より相当額加算すべきである。

また、原告は、昭和六三年七月六日から同年一〇月一七日までの計七七日間は自宅で療養していたが、この間は脚部をギブスで固定し、安静を要する状態であったので、慰謝料の点では、この間も入院の場合と同様に評価すべきである。

(2) 通院について

原告は、受傷から症状固定まで一一三二日を要したが、この間の実通院日数は計三八日、入院日数は計一五九日であったので、残余九三五日間を通院せず療養を続けていた。このうち九六日間は(1)記載のとおり入院と同等に評価すべきであり、その残余八三八日間は不自由な身体のまま療養していたのである。

にもかかわらず、通院していないというだけで、全く慰謝料請求の対象とならないとすることが不合理であることは明らかであり、原告はこの期間についても通院の場合に準じた慰謝料を請求する。

(3) まとめ

以上を総合すると、原告の入通院慰謝料は四〇〇万円が相当である。

(一二) 後遺障害慰謝料四〇〇万円

原告の後遺障害は、一項2記載のとおりであるが、原告は未婚の女性であり、二二歳の若さで終生このような後遺障害を残すに至ったのである。

原告の右後遺障害を慰謝するためには、四〇〇万円を要する。

(一三) 弁護士費用 三八〇万円

三 本件請求額

三五三二万七九五三円

二項2の(一)から(一三)の合計額三六六九万三一八五円から既に支払を受けた本件損害賠償額一一四万四二五二円及び同項2の(八)記載の下宿期間である二九か月間にわたって不要となった通学定期代二二万〇九八〇円(一か月当たり七六二〇円)を控除すると、三五三二万七九五三円となる。

よって、原告は被告に対し、本件不法行為に基づく損害賠償金として、同金額及びこれに対する本件不法行為の日である昭和六三年六月二〇日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四 当事者間に争いのある被告の抗弁事実(過失相殺)

本件事故は、道路幅員の狭いしかも見通しの悪いカーブでの衝突事故であり、原告に徐行義務及び道路左側通行義務に違背した過失が認められる事案であるので、原告の請求については、五割程度の過失相殺をすべきである。

五 原告の認める被告の抗弁事実(損益相殺)

1 原告に対する既払額

一一四万四二五二円

2 原告が下宿している間支払を免れた通学定期代 二二万〇九八〇円

3 合計 一三六万五二三二円

第三 証拠〈雀略〉

理由

一本件の争点

本件の主たる争点は、本件事故による原告の損害(事実及び争点欄第二の二項2。以下、本件事故による原告の損害を単に「本件損害」ともいう)及び過失相殺(同四項)である。

なお、当事者間で争いのない本件事故の結果(同一項1の(六))及び原告の後遺障害(同一項2)の各事実並びに原告本人尋問の結果によれば、原告の主張する自覚症状(同二項1の(一)から(八))は、全て真実存在するものと認められる。

二本件事故による原告の損害

1  治療費 六一万四五九二円

当事者間に争いがない。

2  付添看護費 合計四二万円

(一)  入院付添費 三七万円

当事者間で争いのない事実に、〈書証番号略〉及び原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

すなわち、原告は、本件事故により右下腿骨(脛骨及び腓骨)開放性骨折、右手背打撲の傷害を負い、本件事故日である昭和六三年六月二〇日から同月二七日まで山の辺病院に入院し、整骨のための手術を受けた。同日、天理よろづ相談所病院(以下「よろづ病院」という)に転院し、同病院に同年九月一日まで入院したが、同病院においては、原告に対する整骨が十分でなく接合部で曲がっていることが判明したことから、右足の踵骨に穴を開けて鋼線を通す手術を受け、その後、右鋼線の端に重りを付けて引っ張る鋼線牽引を相当期間行った。そして、右各入院期間合計七四日間、原告の母夏子が原告に付き添った。

以上認定の事実、殊に右傷害が開放性骨折という重症である上、鋼線牽引を行っていた間はベッドから移動することは全く不可能であったし、その後にあっても足部にギブスを巻いていたため自ら移動することは困難であったと推定されることからすると、原告が右入院期間、夏子の付添看護を要したことは明らかである。そして、原告の右症状を考慮すると、右の付添看護も相当程度の困難を伴ったものと考えられるので、右付添看護期間一日当たり五〇〇〇円、合計三七万円の付添看護料を本件損害と認める。

(二)  通院付添費 五万円

当事者間で争いのない事実に、〈書証番号略〉及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

原告は、昭和六三年九月一日によろづ病院をいったん退院したが、その後、同年一二月七日以降平成三年三月六日までの間、前後四回にわたって同病院に入院して手術を受けた。右各手術の内容は、①患部をギブスで固定していただけで右骨折部(脛骨)が接合しなかったことが判明したため、原告の腸骨(腰骨)を削り取って脛骨に埋め込み、金属製のプレートを骨折部の骨に当ててボルトで固定する手術及び②右骨折が接合してから右プレートを取り出す手術、並びに③その後、腓骨についても接合していないことが判明したため、さらに腓骨についてもプレートを入れる手術をして接合を待ち、④再び右プレートを取り出す手術であった。原告は、右の期間及びその後平成三年八月二八日までの期間に合計三八日よろづ病院に通院したが、その際、夏子に付き添ってもらった。なお、原告の自宅からよろづ病院までは5.5キロメートルほどの距離があるが、原告の自宅付近にバス路線は通じておらず、自宅から最寄り駅であるJRD駅まで約二キロメートル、JR天理駅からよろづ病院まで約一キロメートルの距離がある。

以上の事実、特に原告の傷害の部位が足であって、右骨折が完全に接合したのは平成三年三月六日に手術を受けるころであったと推認され、そのころまでの長期間、原告は自由に歩行することができず、通院するため自らある程度の距離を歩行したり、公共交通機関を利用することが困難であったと認められることからすると、原告が通院の際、夏子に付き添ってもらったことも止むを得なかったものと判断される。

ただ、原告は後記8項及び9項(一)で認定したとおり、右通院期間内の平成元年四月からは松葉杖を突きながらも通学できたし、平成元年一〇月ころからは家庭教師のアルバイトも再開できたことからすると、平成元年四月ころ以降は、原告自ら、ある程度の身の回りの処置をすることができたものと認められる。そうすると、夏子が原告の通院に付き添ったといっても、右の時期以降において夏子が付き添う必要性は、原告が長距離の歩行や公共交通機関の利用が難しかったことから、よろづ病院への送迎を行うために過ぎないもので、それ以上のものではなかったと判断される。そして、右の送迎をしたに過ぎない期間における通院日数は証拠上判然とはしないので、平成元年四月以前の通院期間とそれ以後の通院期間を対比して、おおよそ前者の期間の通院日数を八日、その後を三〇日と考え、前者については一日当たり二五〇〇円、後者については一日当たり一〇〇〇円として計算し、合計五万円の通院付添費を本件損害と認める。

3  入院雑費 二〇万六七〇〇円

原告は、本件事故による傷害の治療のため、合計一五九日間入院したが(当事者間で争いがない)、右入院期間一日当たり一三〇〇円、合計二〇万六七〇〇円の諸雑費を要したものと判断する(本件事故による損害賠償請求権は一個であるから、個々の項目において原告が主張する請求額を超える損害額を認定しても処分権主義に反しない)。

4  転院費用 一万五〇〇〇円

〈書証番号略〉並びに原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和六三年六月二八日、同日まで入院していた桜井市草川六〇番地所在の山の辺病院から天理市三島町二〇〇番地所在のよろづ病院に転院したが、その費用としてEことFに対して一万五〇〇〇円を支払ったことが認められる。そして、右転院の必要性は肯定でき、また、右の当時の傷害の程度を考慮すると、原告は自ら身動きできず、寝たままの状態であったものと推認され、右転院には相当の困難があって、右転院のための特別の自動車を用意したり、専門家に依頼するなどの必要性があったものと認められる。そうすると、原告が支払った右費用は、本件損害であると認める。

5  医師謝礼 〇円

原告が、2項(一)、(二)で認定したとおり、合計六回もの手術を受けたこと、右手術の内容もそれぞれ相当高度の技術を要する手術である上、原告が女子であることから、手術痕についても相当の配慮を願うなどして、原告(実際には原告の両親らその親族)が手術担当医師に対して特別の配慮を憩願し、社会的な儀礼として合計四〇万円を支払ったことも、その心情は十分理解できる。

しかしながら、原告が本件傷害の治療を受けるために、右四〇万円の医師謝礼が是非とも必要であったような事情を認めるに足りる証拠はなく、通常の治療費を支払うことのみによっても右と同様の治療を受け得たものと推認される。そうすると、右謝礼は本件事故と因果関係のある損害とはいえない。

6  授業料 一五万円

〈書証番号略〉及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、四年制であるA女子大学学芸部一年生であって、昭和六三年四月から平成元年三月の一年分の授業料合計一五万円を支払ったが、本件事故で受傷した結果、平成元年三月まで大学に通学することができず、留年せざるを得なかったこと、その結果、原告は平成元年四月から平成二年三月の間に同学部一年生の授業を受講するための授業料一五万円を再び支払わなければならなかったこと、原告は、平成元年四月から身体的な障害を持ちながらも同学部一年生として通学し、四年後の平成五年三月には同学部を卒業したことが認められる。

そうすると、原告は、本件事故によって受傷しなければ、平成元年三月には同学部の一年生の課程を終了したものと推認でき、そうすると、原告が同学部一年生の授業料を昭和六三年度に支払ったのにもかかわらず、更に平成元年度においても二度目の授業料を支払わざるを得なかったのは、本件事故の結果であって、右二度目の一五万円の授業料の支払は本件損害にあたる。

7  家屋改造費等 九万二八〇〇円

2項で認定した事実に〈書証番号略〉及び証人甲野太郎の証言を総合すると、原告は、昭和六三年九月一日にいったんよろづ病院を退院して自宅に戻った時点でも骨折が完治しておらず、歩行が不自由であって松葉杖を用いる必要性があったこと、そのため、合計四万四八〇〇円を費やして原告方の屋外から居間へ上がるためのスロープを設けたこと、また、原告は右退院後も右足にギブスを巻いていて、ふとんでは寝ることができなかったので、代金四万六〇〇〇円でベッドを購入し、また、食堂への移動もままならなかったので、ベッドで食事をするためのバイアステーブルを二〇〇〇円で購入したことが認められる。

そして、これらの費用は、本件傷害のために止むを得ず要したものであって、本件損害と認める。

8  下宿代   六〇万九〇〇〇円

2項及び6項で認定した事実に、〈書証番号略〉及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故にあうまでは原動機付自転車でB駅までの約3.5キロの道のりを走り、同駅から○○線及び○○線等を乗り継いで○○市○○町所在のA女子大学まで通学していたこと、原告は、本件事故後は平成元年四月から同大学に通学するようになったが、当時は未だ骨折が完治しておらず、杖を突いていた状態で、自宅から右のような原動機付自転車や公共機関を用いての通学は困難であったこと、そのため、原告は下宿から通学することとし、平成元年四月一日から平成三年八月二八日まで二九か月間、○○市で下宿し、家主に一か月当たり二万一〇〇〇円、合計六〇万九〇〇〇円の下宿代を支払ったことが認められる。

右の下宿代は、原告が本件事故にあわなければ必要でなかった費用であって(右の結果不要となった通学交通費は、四項記載のとおり損益相殺される)、本件損害と認める。

9  休業損害

三七六万五三〇〇円

(一)  アルバイト代 九〇万円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故前塾の講師及び家庭教師のアルバイトをしており、塾では週に三回教えて月額四万円の、家庭教師は週二回教えて月額二万円の各収入(合計月額六万円)を得ていたが、本件事故で受傷した結果、平成元年九月までの約一五か月間アルバイトに行けず、合計九〇万円を損害を被ったことが認められる。

(二)  就職の遅延による損害

二八六万五三〇〇円

6項で認定した事実によると、原告は、本件事故にあわなければ平成四年三月には大学を卒業して、同年四月には就職できた蓋然性が認められる。ところが、原告は、本件事故による傷害の結果、一年間の留年を余儀なくされ、卒業及び就職が一年間遅れ、右一年間に得られたであろう賃金相当の損害を被った。そして、〈書証番号略〉によると、原告は昭和四四年○月○日生まれであって、平成四年度には満二三歳になったと認められる

そこで、原告が平成四年四月から平成五年三月までに得たであろう給与額を、現時点(本件口頭弁論終結時である平成五年四月二一日。以下「現在」ともいう)で得られる最も新しい賃金統計資料である労働省大臣官房政策調査部編の「賃金センサス」(平成三年第一巻第一表。以下、単に「賃金センサス」という)の産業計・企業規模計の「女子労働者」「旧大・新大卒」の二三歳時の平均年間給与額に求めると、二八六万五三〇〇円となる。

10  後遺障害による逸失利益

一四三〇万五二一一円

原告が、本件事故によって事実及び争点欄第二の一項の2記載の後遺障害を負い、右後遺障害が自動車損害賠償保障法施行令別表一一級に相当する程度のものであることについては当事者間に争いがない。そうすると、原告は、本件事故によりその労働能力の二割を失ったものと判断され、右労働能力の喪失によって原告の被った損害は、原告が本件後遺障害がなければ得たであろう生涯賃金の二割とみるべきである。

原告は、平成五年四月(同年度の原告の年令は、9項で認定したところによると、満二四歳)から労働可能期間と認められる原告の満六七歳までの四三年間に原告が得られると見込まれる収入額について、賃金センサスの産業計・企業規模計・大卒女子の全労働者の平均賃金相当額の収入を基礎とし、中間利息の控除を新ホフマン式によって計算すべきである旨主張する(同二項2(一〇))。

しかしながら、中間利息控除率の低い若年時に全労働者(全年令層)の平均賃金という実際よりも高額な収入を得られると想定することは、実体にそぐわないし、被害者に有利に過ぎる。また、中間利息控除の方法には、一般にホフマン方式(単利計算)及びライプニッツ方式(複利計算)が行われているが、中間利息の控除は、本来将来にわたって分割して受け取るべき賃金を現在の一時金として受け取ることによって、被害者が不当に利益を得ることを避けるために行われるものであって、被害者としては、現在受領する一時金を銀行等の金融機関に定期預金等することによって、安全確実に複利計算による利殖を行うことができるから、中間利息控除の方法としては、ライプニッツ方式がより合理的である。

そこで、原告と同様の賃金条件にある労働者が、現在その各年令層に応じて得ている各賃金を、賃金センサスの産業計・企業規模計の「女子労働者」「旧大・新大卒」の年令別平均給与額(将来この平均給与額自体が上昇する可能性もあるが、その額について蓋然性の域にまで達する値を求めることはできない)に、年率を五分(民事法定利率)とするライプニッツ方式による複利現価率(本件事故時を基準とするため、原告の二四歳時のそれは五年目のもの)によって中間利息を控除した結果得た右労働者の生涯所得の本件事故時における金額は、七一五二万六〇五七円となる(別表参照。この算定方法については判例タイムズ七一四号一七ページ、加賀山茂・竹内尚寿「逸失利益の算定における中間利息控除方式の問題点について」を参考とした)。そして、前記判断のとおり、右金額の二割に相当する一四三〇万五二一一円(一円未満四捨五入)が原告の逸失利益となる。

11  入通院慰謝料 三〇〇万円

当事者間に争いのない本件事故による原告の受傷結果(同欄第二の一項1(六))及び2項で認定した事実に、原告本人尋問の結果から認められる本件傷害についての手術時及び療養時の苦痛(同欄第二の二項2(二)記載の事実)、特に原告が大学一年生という最も青春を謳歌できる時期に長期間の不自由な入院療養生活を送らざるを得なかったことや手術の内容、程度、回数等の事情を併せ考慮すると、原告が本件入通院によって被った精神的損害は大きいものと認められる。

そこで、右の損害を慰謝するためには、少なくとも三〇〇万円を要するものと判断する。

12  後遺障害慰謝料  三〇〇万円

当事者間に争いのない原告の後遺障害(同欄第二の一項2)の事実及び一項で認定した本件後遺障害による原告の自覚症状(同欄第二の二項1)、特に原告が、未婚のうら若い女性であって、通常であればスポーツをしたり茶道・華道などに習熟したいと願う境遇であるのに、それらが十分にできなくなったこと等の事情を考慮すると、本件後遺障害によって原告の受けた精神的な損害は著しい。

そこで、右の損害を慰謝するためには、少なくとも三〇〇万円を要するものと判断する。

13  合計額

二六一七万八六〇三円

三過失相殺について

1  前提事実の認定(本件事故態様)

当事者間に争いのない本件事故態様(同欄第二の一項1(五))に、〈書証番号略〉、証人甲野太郎の証言、原告本人尋問の結果及び被告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)によると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、別紙図面記載のとおりであるが、本件事故当時においては、本件事故現場付近の道路(以下「本件道路」という)の両側の雑草が約1.6メートルの高さまで生い茂り、かつ本件道路の両脇から路面上まで張り出していて、本件道路の見通しを妨げ、かつ本件道路の有効幅員を約3.5メートルにまで狭めていた。

本件事故直前の被告の進路の道路状況は、○○川に掛かる対面二車線の橋を渡ると直ちに右に急なカーブでかつ下り坂となり、右橋を渡ってから七、八〇メートル走行すると、それまで二車前であった道路のうちの被告の進路前方がさえぎられるような形に幅員が急に狭くなって一車線になると共に左にカーブしていて、その先の見通しができない状態であった。

また、同じく原告の進路の道路状況は、○○川北岸に沿ったほぼ水平な直線道路で、その幅員は四メートルであり、進路左側にはガードレールが設置されているものの、右ガードレールよりも進路右側にまで雑草が張り出していて、その有効幅員は約3.5メートルほどしかなかった。そして、本件事故現場付近で道路が右にカーブすると共にわずかながら上り坂となっており、そのカーブの先の見通しは利かず、さらにそのカーブの先で今度はその道路が左にカーブしていることがガードレールの存在によって分かるものの、そこを通行している車両の有無は、ガードレールで遮られていることによって分かりにくい。

なお、原告及び被告の進行していた道路は、いずれもアスファルト舗装が施してあり、本件事故当時の路面は乾燥していた。

(二)  被告は、長さ4.65メートル、幅1.69メートルの比較的大型の普通乗用自動車である被告車を時速約三〇キロメートルで運転して、前記橋を渡り終えたあたりで進行方向の右手約一〇〇メートル先に原告の運転する原動機付自転車(原告車)を見た(他に対向車両は発見しなかった)が、そのあと右に向かうカーブに入ったため原告車は見えなくなった。被告は、同地点ではギアをサードに入れていたが、その後クラッチを切ってセカンドに入れ、クラッチを切ったままの状態でブレーキは掛けずに、すなわち下り坂であったため、減速されない状態で進んだ。そして、右カーブを終わって左カーブに入る手前で、約20.6メートル先に被告の進路から向かって道路の左端から約2.1メートル付近の位置(有効幅員が約3.5メートルであるから、同じく道路の右端から1.4メートル付近)を進行してきた原告車を発見して直ちにブレーキを掛けたが、そのまま9.3メートル進行して自車の右前部を原告車の右前部から右側面に衝突させ、さらに同位置から1.1メートル(ブレーキを掛けた位置から10.4メートル)進行して停車した。被告車の右停車位置は、道路の北端から被告車の右端までが約2.3メートルであった。被告車の車幅から考えると、被告車の停車時の左方の余被(道路の北端から被告車の左端までの間隔)は約0.6メートルあった。

被告が原告車を発見した時点での被告車の速度は、被告が原告車を発見して直ちに制動したのにもかかわらず約10.4メートル走行していることから考えて、時速二五から三〇キロメートル(路面の摩擦係数0.7、空走時間を0.8秒として計算)の間であったと考えられる。

(三)  原告は、長さ1.45メートル、幅六〇センチメートルの原動機付自転車を時速二、三〇キロメートルで運転して、○○川北岸の直線道路を西進してきたが、進路左側のガードレールからさらに内側に雑草が張り出していたため、右ガードレールの右側約1.4メートル付近を走行していた。そして、本件事故現場である右方へのカーブに差し掛かかり、その先の見通しが利かなかったが、原告は、対向車が一時停止してくれるものと信じていたことから減速をしないまま進行したところ、突然右前方から右カーブに進入してきた被告車を自車前方14.8メートル先に発見したが、やや左方向に進路を変えただけで、ブレーキを掛けるいとまのないまま約6.9メートル進行して自車の右前部と被告車の右前部とが衝突した。原告車は、右衝突地点から約0.7メートル前方で転倒し、原告は、同地点から約0.9メートル先に投げ出された。

2  反対証拠について

(一)  ところで、被告は、その本人尋問及び被告代理人からの電話聴取(〈書証番号略〉による)において、前記認定に反する要旨以下のような供述をする。

(1) 自分は、手前の橋を渡ったあたりでは時速三〇キロメートルで走行していたが、細い道(前記一車線の道)に入るときには危険だと思ったのでいつでも止まれる速度で進行した。原告車が進行してきているのが分かっていたのに一旦停止をしなかったのは、自分は本件道路の状況を良く知っており、道路の幅員と原告及び被告車の幅から考えて、細い道でも十分にすれ違えると考えていたからである。

(2) 自分は、ブレーキに足をかけて徐々に減速しながら、細い道に二メートルくらい入ったところ、道路全体が見通せるようになり、その時点で自車前方四、五メートルの道路の真ん中を原告車が走行しているのを発見した。自分は、当然原告車が自車を避けて進行してくれるだろうと考えたが、それまで足をかけていたブレーキをさらに踏み込んだ。自車は、原告車を発見した位置から一メートルほど進行して停止した。

(3) ところが、原告は、原告の進行方向から見ていったん体を右に振り、続いて左に体とハンドルを振って左前に進み、被告車の前部バンパーの右側に原告車の右側側面のフードを当てた。被告車が停車した後に、原告が被告車に当たってきたものである。

(4) 〈書証番号略〉の実況見分調書は事実と違っている点が多いが、被告車の位置としてそれぞれ記載されている地点は、自分が現場で車を移動させながら説明した地点である。

(二)  他の証拠との対比

(1) 被告の(一)の供述は、被告自身認めるように、本件事故当日である昭和六三年六月二〇日午前七時四〇分から同日午前八時二〇分までの間、被告自身が立会い、その指示説明に基づいて作成された1項(二)で認定した事実に沿う実況見分調書(〈書証番号略〉)の内容と著しく異なる。右実況見分作成当時には、原告は重傷を負って救急車で運ばれており、本件事故を目撃した第三者もいなかったから、警察官が被告の言い分と異なる事実を記載した調書を作成したとは考え難い。

(2) 被告は、昭和六三年一〇月二六日にも、原告と共に現場に立ち会って、本件事故時の状況について指示説明をし、その結果が実況見分調書(〈書証番号略〉)に作成されている。その際の原告の指示説明は、衝突位置等について被告の説明するところと異なっていたが、被告は、(1)の実況見分調書の記載を前提として、(1)の実況見分の際の指示説明が正しい旨述べている。

(3) さらに、被告は、その加入する自動車共済(農協)に対する「自動車事故連絡表」(〈書証番号略〉)を自ら作成しているが、その中で、事故の状況として、「…地点では相手車は目の前に来ていた。当方車三〇キロメートル以下。道路側に雑草の繁茂で実質の道幅はない」と記載している。もし、被告車が停車してから原告車が被告車に当たってきたのであれば、当然そのことを記載したはずであるのに、「当方車(時速)三〇キロメートル以下」と、自車が停車していなかったことを前提とする記載がある。被告は、(一)の(1)で本件事故現場で被告車と原告車は十分にすれ違える旨述べて、原告が道路中央付近を進行していた過失がある旨強調しているが、もしそのように考えているのであれば、記載するはずのない「道路側に雑草の繁茂で実質の道幅はない」との記載も存する。

(4) そして、被告は、(一)の供述内容と異なる右(1)から(3)のような証拠が存在することの理由について何ら合理的な説明をしていない。

(三)  まとめ

以上、(二)の(1)から(3)で指摘した、(一)の被告の供述と異なるそれ以前の被告自身の供述や手記、あるいは(二)の(4)で指摘した事実に照らすと、(一)の被告の供述は採用できない。

3  原告と被告の過失割合について

そこで、1項で認定した事実に基づいて、原告及び被告相互の過失内容及び過失割合について検討する。

(一)  被告の過失

被告は、自らの進行道路が、対面二車線道路から一車線道路(実質幅員約3.5メートル)になり、かつ左へ向かうカーブになっていて、道路の両脇に繁茂していた雑草のため、見通しが利かなかったのであるから、通常、カーブに入る前に徐行して、対向車両の存在の有無を確認し、もし対向車両が接近していれば、正面衝突を避けるために一時停止をしてその通過を待つ必要があった。

ところが、本件の場合、被告は、原動機付自転車である原告車のみが対向してくるのを本件カーブの手前七、八〇メートル付近の進路前方の見通しが利くときに発見したが、脇道もなく、他に対向車がやって来ることも考えられなかったことから、車幅の狭い原動機付自転車である原告車とならば一車線道路において自車とすれ違えられるものと軽信し、時速二五から三〇キロメートルのスピードでそのまま進行したものと考えられる。

右の被告の判断は、本件事故現場の道路の幅員が十分に存する場合には合理的といえる。しかしながら、被告車は、本件事故後の停車位置における左方の道路との間隔から考えて、少なくとも左方に約0.6メートルの余裕を持って進行していたといえるから、本件事故現場の実効幅員が約3.5メートルしかなかったため、その右方には約1.2メートルしか余裕がなかった。そして、原告車は、1項(三)で認定したとおり、車幅が六〇センチメートルあり、時速二、三〇キロメートルで進行してきていたのであるから(右速度は、原動機付自転車の速度としては通常のものといえる)、被告が原告車と相対速度四五キロメートルないし六〇キロメートルという高速度で右のような狭い道ですれ違えるものと信じたことは軽率であり、その点で過失があったといえる。被告は、原告車の速度がもっと遅いものと誤解して、自車と原告車が、本件事故現場よりも東方の直線で見通しの利く場所ですれ違えるものと判断した可能性もある。しかし、そのように判断したとするならば、右判断自体軽率で、過失があったといえる。

(二)  原告の過失

原告は、本件事故現場の道路の実効幅員が約3.5メートルと狭い上に右にカーブしていて(以下、右カーブを「本件カーブ」という)先の見通しができない場所であるにもかかわらず、対向車が一時停止して自車の進路を妨害するはずがないと信じて、速度を落とすことなく時速二、三〇キロメートルで進行した結果、被告車が本件カーブから原告車前方に向けて出てきたのを見て驚き、ブレーキを掛ける間もなく被告車に衝突したものである。

なるほど、被告車の進行方向を走行してきた普通自動車や大型自動車等の四輪車(以下「普通自動車等」という)は、原告の進行方向から普通自動車等が進行してきた場合、一車線道路上ですれ違うことが困難であるため、本件カーブの手前で対向車がないことを確認してから一車線道路に進入して来るのが通常であるといえる。

しかしながら、本件の場合、被告は本件カーブの七、八〇メートル手前の一車線道路の見通しが利く地点で、原告車だけが対向してくることを確認したが、原告車が原動機付自転車であったため、一車線道路ですれ違えるものと考えて本件カーブに進入してきたものであって、原告としては、このようなことがあることも予想して、原則どおり、見通しの利かない道路のまがりかどである本件カーブの手前では、徐行し、対向車の有無を確認すべきであったのにそれを行わずに進行した過失がある。

(三)  原告と被告の過失割合

原告と被告の過失を対比した場合、共に前方の見通しが悪かったのに、原告は対向車が一時停止をするものと軽信し、被告は対向車が原動機付自転車であるからすれ違えるものと軽信し、共に徐行しなかったという点で同様の過失がある。そして、被告は道路状況から原告車を発見することができかつ発見していたのに対し、原告は被告車を発見することが困難であったのであって、被告は原告に比べてより本件事故の発生を防止するための注意を払うことができたのにそれを怠ったという意味で、原告により大きな過失がある。また、原告車は、事故にあった場合に運転者の受ける被害の程度が通常格段に大きい原動機付自転車(二輪車)であって、普通自動車の運転者である被告は原動機付自転車の運転者である原告に比べてより高度の注意を払うべきであったといえる。

以上の事情を考慮すると、原告と被告との過失割合は、三〇パーセント対七〇パーセントとするのが妥当である。

四結語

1  弁護士費用を除く原告の損害額 一六九五万九七九〇円

そうすると、本件事故による原告の損害額(後記弁護士費用を除く)は、二項で検討した二六一七万八六〇三円に三項で検討した過失割合による過夫相殺をした額である一八三二万五〇二二円から、当事者間で争いのない損益相殺額である一三六万五二三二円(事実及び争点欄第二の五項)を控除した一六九五万九七九〇円となる。

2  弁護士費用 一八〇万円

前記認容額、本件訴訟の経過、特に被告が本件訴訟において、本件事故直後に警察官らに対して供述したところと異なる変更供述をしたため、事案の真相が被告の変更前供述に沿うものであると考えた原告訟訴代理人において多くの訴訟準備活動を要したこと(当栽判所は、被告の変更供述を採用しなかった)等の事実を基礎に、日弁連報酬等基準規程を参考とし、なお、通常の弁護士費用の支払時期との関係から、原告が遅延損害金を不当に利得しないように考慮すると、被告に負担させるべき本件訴訟委任費用は、一八〇万円とするのが妥当である。

3  遅延損害金について

遅延損害金は、本来、原告に当該損害が生じた、あるいは原告がその損害を負担した時点からその填補がなされるまでの期間について付されるのが公平にかなう。

ところで、本件においては、二項の2から4、7から9などの各損害項目については、実際の損害の発生時期が不法行為時より後であって、遅延損害金を不法行為時から付すると原告に有利といえるが、逆に、同項10の損害項目(後遺障害による逸失利益)については、複利現価法によって事故時点の現価を求めているので、単利計算しか行わない遅延損害金は原告に不利といえる。しかしながら、このような有利不利を個々に判断して遅延損害金の発生時期を考慮したり、損害金の増減を行うことは実際上困難であるし、不法行為の時点で全ての損害が発生し、かつ遅滞に陥るものと考えるのが相当である(損害賠償債務一個説)以上、全ての損害について、本件不法行為時である昭和六三年六月二〇日から遅延損害金を付することとする。

4  結論

よって、本件請求は、原告が被告に対して一八七五万九七九〇円及びこれに対する昭和六三年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金額の支払を求める限度で理由があるので認容し、その他の請求は理由がないので棄却する。訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官森脇淳一)

別紙

年令

A

月収(円)

S

月収×12

S×12

賞与(円)

B

年収(円)

I=12S+B

複利現価率

K

損害額(円)

D=I×K

24

203,800

2,445,600

419,700

2,865,300

0.78352617

2,245,038

25

237,600

2,851,200

931,800

3,783,000

0.74621540

2,822,933

26

237,600

2,851,200

931,800

3,783,000

0.71068133

2,688,507

27

237,600

2,851,200

931,800

3,783,000

0.67683936

2,560,483

28

237,600

2,851,200

931,800

3,783,000

0.64460892

2,438,556

29

237,600

2,851,200

931,800

3,783,000

0.61391325

2,322,434

30

270,700

3,248,400

1,042,100

4,290,500

0.58467929

2,508,566

31

270,700

3,248,400

1,042,100

4,290,500

0.55683742

2,389,111

32

270,700

3,248,400

1,042,100

4,290,500

0.53032135

2,275,344

33

270,700

3,248,400

1,042,100

4,290,500

0.50506795

2,166,994

34

270,700

3,248,400

1,042,100

4,290,500

0.48101710

2,063,804

35

293,600

3,523,200

1,211,600

4,734,800

0.45811152

2,169,066

36

293,600

3,523,200

1,211,600

4,734,800

0.43629669

2,065,778

37

293,600

3,523,200

1,211,600

4,734,800

0.41552065

1,967,407

38

293,600

3,523,200

1,211,600

4,734,800

0.39573396

1,873,721

39

293,600

3,523,200

1,211,600

4,734,800

0.37688948

1,784,496

40

339,500

4,074,000

1,424,600

5,498,600

0.35894236

1,973,680

41

339,500

4,074,000

1,424,600

5,498,600

0.34184987

1,879,696

42

339,500

4,074,000

1,424,600

5,498,600

0.32557131

1,790,186

43

339,500

4,074,000

1,424,600

5,498,600

0.31006791

1,704,939

44

339,500

4,074,000

1,424,600

5,498,600

0.29530277

1,623,752

45

368,000

4,416,000

1,615,500

6,031,500

0.28124073

1,696,303

46

368,000

4,416,000

1,615,500

6,031,500

0.26784832

1,615,527

47

368,000

4,416,000

1,615,500

6,031,500

0.25509364

1,538,597

48

368,000

4,416,000

1,615,500

6,031,500

0.24294632

1,465,331

49

368,000

4,416,000

1,615,500

6,031,500

0.23137745

1,395,553

50

417,900

5,014,800

1,994,100

7,008,900

0.22035947

1,544,477

51

417,900

5,014,800

1,994,100

7,008,900

0.20986617

1,470,931

52

417,900

5,014,800

1,994,100

7,008,900

0.19987254

1,400,887

53

417,900

5,014,800

1,994,100

7,008,900

0.19035480

1,334,178

54

417,900

5,014,800

1,994,100

7,008,900

0.18129029

1,270,646

55

405,000

4,860,000

1,927,500

6,787,500

0.17265741

1,171,912

56

405,000

4,860,000

1,927,500

6,787,500

0.16443563

1,116,107

57

405,000

4,860,000

1,927,500

6,787,500

0.15660536

1,062,959

58

405,000

4,860,000

1,927,500

6,787,500

0.14914797

1,012,342

59

405,000

4,860,000

1,927,500

6,787,500

0.14204568

964,135

60

476,100

5,713,200

2,168,700

7,881,900

0.13528160

1,066,276

61

476,100

5,713,200

2,168,700

7,881,900

0.12883962

1,015,501

62

476,100

5,713,200

2,168,700

7,881,900

0.12270440

967,144

63

476,100

5,713,200

2,168,700

7,881,900

0.11686133

921,089

64

476,100

5,713,200

2,168,700

7,881,900

0.11129651

877,228

65

397,700

4,772,400

1,530,900

6,303,300

0.10599668

668,129

66

397,700

4,772,400

1,530,900

6,303,300

0.10094921

636,313

15,041,200

180,494,400

65,061,000

245,555,400

14.43506519

71,526,057

別紙交通現場見取図〈省略〉

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